【Vol. 07】屏風に舞う鳳凰

輪旅第七弾、今回の舞台は都内唯一の屏風専門店である片岡屏風店。
五色絢爛極楽霊鳥出現北斎鳳凰図を屏風に仕立てあげた職人の片岡恭一かたおかきょういちさんにお話を伺いました。
前回の墨田みどり保育園編から続き屏風でつながる今回のインタビュー。
一体どんなお話が聞けるのでしょうか。

1946年創業。都内唯一の屏風専門店です。

今回の舞台は片岡屏風店

ふとめ:葛飾ふとめ

ぎょろめ:ぎょろめの

ふとめぎょろめ:輪になって北斎!

ぎょろめ:さあ、第7弾ということで今回は“片岡屏風店”にお邪魔しております。

ふとめ:いや~、屏風に囲まれてますね。

ぎょろめ:屏風店ですからね。こちらは博物館としても利用でき、はたまた屏風の制作体験まで出来るという夢のような空間になっております。

ふとめ:ぎょろめちゃん、こういった空間好きよね。

ぎょろめ:うん、大好き。屏風の細かいところまで伺えるということでテンションが上がってるよ。もちろん、北斎ともつながりがありますので色々と聞いてみましょう。それでは片岡屏風店の片岡恭一さん、よろしくお願いいたします。

ふとめ:よろしくお願いいたします。

片岡さん:はい、よろしくお願いいたします。

ぎょろめ:早速お聞きしたいと思います。片岡屏風店は1946年の創業で現在では都内唯一の屏風専門店なんですよね。

片岡さん:そうです。私の父の代からここで屏風を作り続けています。過去には7,8軒くらい専門店があったのですが、後継者がいなくなったりと様々な事情があって現在ではここだけになりましたね。街には表具屋という掛け軸を制作したり、障子を張り替えたりするお店はまだまだたくさんいらっしゃいますが、屏風専門ということであれば都内ではここだけですね。

ぎょろめ:都内の屏風はおまかせあれ!という感じですね。

片岡さん:いえいえ、そこまでは…。

一同:(笑)

ぎょろめ:結婚式で使われる金屏風やオーダーメイドの屏風も制作されるということですが、最近だとどんな注文が多いのでしょうか?

片岡さん:はい。節句用の小さいサイズの屏風やホテルなどで使われる金屏風がメインですが、最近はタンスにしまってある帯や着物を使った屏風を制作していますね。使う機会はないけれど中々捨てられないものを屏風に仕立て上げるわけですね。

ぎょろめ:布地を使うということですか?

片岡さん:この屏風がそうですよ。

ぎょろめ:これが帯地ですか!?こんな分厚い生地のものでも屏風にできるんですね。

片岡さん:タンスの中にしまってある大切なものをこういった屏風に仕立て上げると、思い出がインテリアになるんですよ。

ぎょろめ:家具としてとても素敵に変化しますね。

片岡さん:そうですね。あのピンク色の屏風は着物地ですよ。

ぎょろめ:え!?元々屏風の柄だったみたいに馴染んでますね。使わなくなったランドセルをミニチュアにすることもありますけれど、こうして屏風として立派になると帯や着物が第2の人生を歩んでいるような感じですね。

片岡さん:そうですね。多くの方が屏風というと“畳”の部屋をイメージするんですが、洋室に置いていただくと和洋折衷なモダンな部屋になるんですよ。帯や着物に残る思い出が形を変えて受け継がれていくわけですね。

今も昔も身近にあった屏風

ぎょろめ:現在ではホテルなどで使われる屏風ですが、由来はどこからのものなのでしょうか。

片岡さん:板状のもので畳むような形は中国から伝わりましたね。日本だと紙の質でできた襖みたいになっているものが古くからあります。

ぎょろめ:日本だと奈良時代くらいからですかね。

片岡さん:そうですね。そういう記述が正倉院に残っているそうです。
ぎょろめ:当時はどんな用途で使われていたんですか?

片岡さん:奈良時代での使い方なのかは置いておき、“屏風”という文字に“風”が使われていますよね。そして“屏”という字は“防ぐ”という意味を持っています。つまり、風を防ぐための道具ということですね。昔は襖や障子くらいしかなくて隙間風が入ると寒かったんですよ。そこで屏風を襖や障子の間に入れて風を防いでいたわけです。

ふとめ:今でいうとパーテーション?

ぎょろめ:そうだね。そんな感じだね。

片岡さん:枕元に置く屏風を“枕屏風”と呼んで、一家に一台必ずあるようなものだったそうですよ。

ぎょろめ:そうなんですか!時代劇なんかで見る屏風はただの飾りではなかったんですね。

片岡さん:もちろん飾りの役目もありますが、風よけだったり間仕切りの役目もあったわけです。

ふとめ:私たちも両国第一ホテルの金屏風の前でパフォーマンスしたことがあって素敵なセットだと思ってましたが、そんな役目があったんですね。知りませんでした。

ぎょろめ:屏風が背景にひとつあると空間が区切られて、特別な空間になりますよね。

片岡さん:金屏風は他に魔除けみたいな意味が込められていますよ。お葬式なんかの場ですと銀色のものを使ったりします。

ぎょろめ:なるほど。今も昔も身近な場所に屏風があったんですね。外国だと空間を仕切るようなイメージがありますけど、日本での使い方はまた違って面白いですね。

片岡さん:そうですね。部屋の真ん中で仕切れば1間が2間になりますし、ベランダで布団や服を干すときには屏風で隠せたりしますからね。使わないときは畳めるのでしまいやすいですよ。

小さい子でも体験できる「からくり屏風」制作

ぎょろめ:現代ではインテリアにもなっている屏風ですが、また少し違った形の屏風がありますよね。墨田区のふるさと納税の返礼品にもなっている“からくり屏風”は私たちも触れたことがあって、そのギミックに驚きました。

ふとめ:私、不器用で未だに屏風の絵柄を変えられない…

ぎょろめ:力づくで変えようとするよね。

一同:(笑)

ぎょろめ:“からくり屏風”はどういった経緯で制作されたんですか?

からくり屏風制作体験の様子

片岡さん:最初は墨田区の小中学生に向けた屏風の制作体験ができないか考えたんです。屏風というとどうしても刷毛を使ったりする難しいイメージがあるので、それを簡単にしかも面白い仕組みで何かできないかと考えたときにからくりの仕組みが浮かんできました。実はからくりの屏風って昔からあって、それを小さくしたら作りやすくて興味を引くものになるかなと。最初は2,3人くらいから体験教室が始まりましたが、今では修学旅行生が一度に50人ほど来る時もありますよ。

ぎょろめ:小さい子でも作れるような簡単なものですか?

片岡さん:ええ、簡単に作れますよ。小さい子は小さい子向けに最初から素材を切っておいたりして、制作しやすいように工夫しています。

制作体験のからくり屏風

ぎょろめ:お子さんでもできるから、ふとめも頑張ればできるよ。

ふとめ:私の一番苦手なことって糊で紙を貼ることだからね。

ぎょろめ:ちょっと練習させてから来ますね。

一同:(笑)

片岡さん:それができないと完成しないからね(笑)

鳳凰図屏風の制作秘話

完成当時の鳳凰図

ぎょろめ:からくり屏風の他に片岡屏風店と墨田区といえば、“五色絢爛極楽霊鳥出現北斎鳳凰図”ですよね。実は私たち、前回のインタビューで鳳凰図の制作に臨んだ“墨田みどり保育園”に伺いました。そちらで最終的な屏風に仕立てあげられたのが片岡さんとお聞きしましたので、屏風にする際のエピソードや思い出をお聞かせいただけますか。

片岡さん:大きい屏風ですよね。

ぎょろめ:そうですね。私たちも何度か屏風の前でパフォーマンスさせていただいたことがあります。

神奈川沖浪裏モチーフの屏風

片岡さん:以前にも“神奈川沖浪裏”をモチーフにした卒園制作の作品を屏風にさせていただいたことがありまして、それがとても良い出来映えだったんですよ。それから暫くして観た鳳凰図も本当に素晴らしかったので、そのまま置いておくのはもったいないと思ったんです。園長先生に「屏風にしましょう!」と口を滑らせたらそのまま屏風になっちゃったんですね。

一同:(笑)

ぎょろめ:うっかり言っちゃったんですね(笑)

片岡さん:はい。大きな卒園制作が出来上がったと連絡をいただいた頃に一度観に行きました。観てみましたら、作品はもちろん和紙では作られていないわけですね。いわゆる模造紙に描かれていました。模造紙でももちろん大丈夫なんですが、紙を繋ぎ合わせているのが色んな材質のテープだったりしたわけです。中にはそのテープの上に絵が乗っかっていたのでどうしたものかと。

ぎょろめ:屏風にする前提ではなかったということですもんね。

片岡さん:そうなんですよ。ですので、その作品をどうやって屏風にしたものかとまず考え始めましたね。表面のテープをはがしてしまうと絵もはがれてしまいますからね。裏にはガムテープがみっちり貼られていましたし。

ぎょろめ:一筋縄ではいかなかったわけですね。

片岡さん:そうですね。ガムテープを単にはがすと紙が薄くなっちゃいますので、慎重に指でガムテープを削いでいったりとか大変でしたね。素晴らしい作品だったので、傷つけるわけにはいきませんでした。

ぎょろめ:そうだったんですね。私はてっきり屏風に絵をプリントしたかと思っていたんですけど、そんな大変な思いをされて仕立てて下さった屏風ならきっと園児たちも思い入れが強くなりますね。

片岡さん:あれだけの大作ですからね。屏風のような立体的なものになることで絵と異なる見え方なので、園児たちも喜んでいましたね。

鳳凰図は6曲の屏風

ぎょろめ:なるほど。ここでちょっと気になったのでお聞きしたいのですが、屏風の面の数え方ってどんなものでしょうか。

片岡さん:“曲”と数えます。2面あって折りたためる屏風は“2曲”の屏風ということですね。ですので、鳳凰図屏風は6面あるので“6曲”ということです。

ぎょろめ:なるほど…。

片岡さん:はい。鳳凰図は実は当初“5曲”だったんです。“5曲”の屏風って絵の部分が外に晒されてしまうので、絵の保護をするために“6曲”にしたんです。

ぎょろめ:面が外に出なくなるということですね。

片岡さん:そうです。その保護するために加えた6曲目に作品のタイトルを書いていただいたんですよ。

ぎょろめ:なるほど!そういう理由があったんですね。

片岡さん:そうですね。作品のタイトルがあるとまた見た目がよくなりますからね。タイトルには相撲などで使う“江戸文字”で書いていただきました。

ぎょろめ:あの文字カッコいいですよね。タイトルがあるから作品名も覚えやすいですし。

片岡さん:実はあのタイトルが書かれている紙、何故か屏風よりも短くなっちゃったんですよ。短いので紙が貼られていない部分があります。

一同:(笑)

ぎょろめ:今度よく見てみますね。

片岡さん:不思議なことにそれでも悪くないんですよ(笑)

ぎょろめ:鳳凰図屏風を見る目がちょっと変わりますね。裏にガムテープがあったんだなあとか思ったり。

片岡さん:よく見るとまだセロテープが残っていたりしますよ。

ぎょろめ:新しい楽しみ方ができますね。でも、職人の技があるからこそ素晴らしい仕上がりにできるわけですよね。

ふとめ:なんといっても“すみだマイスター”ですもの!

つながる親子の心

ぎょろめ:そんな“すみだマイスター”の片岡さんですが、今日は改めて屏風職人になったきっかけやエピソードをお聞かせいただけますか。

片岡さん:はい。私は父の代から屏風を専門に作っておりました。私は長男で姉が一人います。父は長男の私に継いでほしいという気持ちは持っておりましたけれど、「継ぐな」と言っていたんです。

ぎょろめ:何故ですかね。

片岡さん:長男だからという理由で継いだ場合、仕事が上手くいってるときはいいですが仕事がなくなってきた時に「屏風なんて本当はやりたくなかった」と言い訳をされたくなかったのでしょう。自分で選んだ道ならそんなことはないでしょうからね。父はそれを暗に伝えるため「継がなくていい」と言い続けていました。私は逆にそんな言うなら「継いでやる!」と思いましたね。

一同:(笑)

ぎょろめ:お父さんの策略にはまったみたいじゃないですか!

片岡さん:そんなところもありますよね。でも、小さいころから屏風制作を近くで見ていましたし、屏風の素材や道具が転がっているのでそれで遊んでいたんです。屏風そのものが作れないにしても、屏風の扱い方とか乱暴にすると破けるとかそういったことを学びましたし、屏風でなくても余った素材を使って何かしら作っていましたからね。なので、モノづくりそのものは好きでしたし、モノづくりを通じて可能性を追求できると思ったので職人になりました。

ぎょろめ:伝統を受け継ぎつつ、思い出のものを屏風にアレンジするといった過去から現在につながる新しいことにも挑戦されているんですね。私たち、制作の現場も見学させていただいて、そちらに娘さんや息子さんがいらっしゃいましたよね。娘さんや息子さんにも同じように「継ぐな」と言っていたのでしょうか。

片岡さん:うちは長女次女長男の子供が3人いるんですが、後を継ぐことに関しては何も言わなかったんです。

ぎょろめ:おお!試されてる!

一同:(笑)

片岡さん:一応、長男が大学に入る時は後を継ぎたいということをちょっと言ってくれましたね。でも私は大学にせっかく入ってやりたいことがあるならそれはそれで構わないと言いましたよ。在学中で就職活動の時期になると、特に何もしていなくて我々夫婦は黙って見守っていたんですが、長女や次女が気にかけたらしいんです。

ぎょろめ:お姉さんからのプレッシャーがあったんですね!(笑)

片岡さん:そうみたいですね。それで色々あって長男が屏風店を継ぐということに落ち着きました。ただ、卒業したあとは1年間英語の勉強をさせてくれと頼みこまれました。

ぎょろめ:英語ですか?

片岡さん:これからは海外への活路も見出そうという気持ちがあるんでしょうね。英語の勉強のためにアメリカの語学学校へ行って1年間勉強してきましたね。

ぎょろめ:2代目で新しいことに挑戦した屏風店が3代目で更に新しいことに挑戦するわけですね!

片岡さん:そうですね。これからは外国のお客様をますます取り込んでいけるように頑張りたいですね。

ぎょろめ:父の背中を見てご立派に成長されたんですね。

片岡さん:どうですかね。

一同:(笑)

片岡さん:アメリカから帰ってきてすぐにはうちで屏風制作を始めず、新潟にある協力工場の方で1年半くらい修業に行かせました。屏風の作り方も様々ありますし、屏風で使用する枠なんかはうちで作っておりませんのでその勉強も兼ねてですね。すごくいい経験になったと思いますよ。

ぎょろめ:今ではすっかり頼れる存在ですね。

片岡さん:そうですね、もう2年半くらい一緒に作っていますからね。一日も早くお店を譲れる日が来るといいですね。

ぎょろめ:素敵ですね。受け継がれるだけでなく、更に発展していくわけですもんね。さきほど現場を見学させていただいたら、お一人で制作されているわけではなく息子さんや娘さんを含めたチームで屏風を制作されているのは驚きました。

ふとめ:浮世絵も、絵師や版元、刷り師などといった分業で出来上がっているものなので、それとどこか似ているなと思いました。もちろん、同じ部屋で一緒にというわけではなかったのかもしれませんが、どことなく江戸時代の匂いを感じましたね。

片岡さん:そうですね。屏風も一人で全て作れるわけではなくて、糊を塗る人や紙を貼る人がいます。屏風で使っている枠は仕入れていますし、その枠に色を塗る人もいたり様々な人が関わって一つの屏風を作っているんですよ。

ぎょろめ:色んな人の想いがあって屏風が出来上がるんですね。

屏風制作時の様子

人の手で丁寧に制作しています。

作業を見学する学芸人

一人の職人として北斎を尊敬する。

ぎょろめ:それでは最後の質問です。葛飾北斎の作品や人物像などで尊敬している点などがあれば教えて下さい。

片岡さん:はい。葛飾北斎は型にはまっていない方ですよね。素晴らしい作品を作り続けて。しかも90歳を過ぎても作品の出来栄えが衰えることはなかったじゃないですか。私がお店を息子に譲ったとしても、新しい素材を使ったりして屏風の制作に挑戦し続けられますから、一人の職人として屏風を制作し続けたいですね。葛飾北斎はいわば憧れの人です。

ぎょろめ:なるほど。職人の方にお話を聞くと北斎に通じるものがあると感じるのですが、片岡さんもきっと“北斎イズム”みたいなものがあるんでしょうね。

ふとめ:引っ越しをすぐしちゃうとか?

片岡さん:しないですね。

一同:(笑)

ぎょろめ:引っ越しでなくても、一つのものに留まらないというところは共通してますよね。帯地や着物地などの素材を使った制作に挑戦されていますからね。

片岡さん:それこそベロ藍を取り入れた北斎の探究心や挑戦する精神は尊敬できますよね。

ぎょろめ:そうですよね。片岡さんや3代目が今後制作される屏風がますます楽しみになってきました。それでは片岡さん、本日はありがとうございました。

ふとめ:ありがとうございました。

片岡さん:ありがとうございました。

つながる

墨田区

恒例の「人つながる墨田区」ポーズで幕を閉じた輪旅第七弾。
鳳凰図の制作秘話はとても貴重なお話でしたね。
伝統を受け継ぎつつも新たな挑戦を続ける片岡さんのご活躍を乞うご期待!
片岡恭一さん、片岡屏風店の皆さまありがとうございました!
次回、輪旅第八弾は4月下旬更新予定。お楽しみに!

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